よく雑誌とかテレビで、電車の中で化粧をする人の目撃談を面白おかしく披露しているが、私は、見たことがなかった。冬に唇が乾燥したときに薬用リップクリームなら、歩きながら鏡も見ないで(その必要もないし)、ぱっと塗ることはあるけれど、そういうの以外で、一体どんな化粧を車内でするのだろうと思っていた。車内で化粧など不可能ではないかと。
しかし、昨日私は見た。同じ駅から電車に乗って、私の真正面に座った女子大生。ジーンズに、ヨットパーカーに黒いトートバッグ。全体的に地味な印象。おもむろに幅広ヘアバンドで髪を上げ、おでこをだし、10センチ四方のちゃんとした鏡を手に、下地から塗り始める。彼女はすっぴんで、眉毛も描いていない状態。こういうのって、自宅でやるよね、このターバンでおでこを出すところなんて、電車の中でやるの?とかなりショックを受けるものの、目が離せない。じっと観察。彼女は下地、ファンデーションと鏡を見ながら、丁寧に塗り、ルースパウダーを大きなパフにとってもみ込む。いちいち仕事が丁寧。ぱんぱんぱんと、顔に粉を叩き込み、丁寧に眉毛をペンシルで描き、チップでアイシャドーを塗る。だんだんと地味な女子大生が、蒼井優に見えてくる。次はビューラーでカールしてからマスカラなのか、それともリップなのか、チークなのか、というところで私は電車を下りた。
すごく不思議だったのが、彼女は自分の家のドレッサーの前に座っているかのように、ごくごく自然に当たり前のようにやっていたこと。まるで、周りに誰もいないかのように。全く他人の目を気にしている様子はなかった。携帯でメールを打つのと同じような感じで、化粧をしていた。周りの乗客は(多分)見てみぬ振り。良い、悪いではないけれど、多分感覚の違いなんだと思う。昔、会社に席で電気髭剃りの音を派手にたてながら、髭を剃っていたオジサンがいて、その人は席で爪も切っていた(トイレでやってくれ)。やめてほしーなーと思っていたけれど、本人は「何が悪いねん」という感じだった。電車の中で下地から化粧っていうのも、この「髭剃り&爪きり@オフィス」と同じように見えるけど。家で済ませてこようよ、と言いたかった。