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ヒマラヤスギ雑記

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文章と想像力のあれこれ

夫が「たまにはメンチカツとかコロッケが食べたいよ」と言う。コロッケは、結婚して暫くは頑張って作っていた時期もあったけれども、やっぱりフルタイムで仕事していて帰宅してからコロッケって作る気が起こらないので、だんだんと美味しいお肉屋さんのコロッケを買って帰るようになった。やがて、仕事が入っていなくてもコロッケは買うようになってしまった。だって、めんどうくさいんだもん。ただ、餃子だけは必ず作るけど(*1)。夫のリクエストにこたえるべく、駅周辺でコロッケを入手する。あと、ラタトウユも作ろうと野菜をたくさん買う。その後、途中のカフェで休憩した。

カフェで先日購入した『ユリイカ』のバックナンバーを読む。森茉莉の特集である。ひとつ文献が読めたらひとつエッセーを読むというようにしていて、ちびちびと楽しんでいる。その中で中村明(*2)が「森茉莉の文体」というエッセーを書いていて、これがすごく面白かった。森茉莉の独特のリズムは、個性的すぎる句読点の位置から来ていることや、決して流麗な文ではないにせよ、言葉へのこだわりや、圧倒的想像力、体言止めによる点描的効果などなどが、彼女の文を独特で個性的でユニークなものにしていると中村は指摘している。私なりに思ったのは文体というのは、文法的に正確で正しい日本語だから魅力的かといえば、そうではなく、そこにイマジネーションがあるかどうかが分かれ目になるのではないかということ(リズム、も大切だと思う)。文章にもよるけれども、魅力のある文章や場にふさわしい文章は、必ずしも文法的に正しい文章でもないと思っている(正しく魅力的で場にふさわしい、というのがよいのは当然であるが)。森茉莉の文章には、一般的に良しとされない体言止めも多用されているし(森茉莉のような書き手でないと逆効果だけど)、助詞がちょっと変なときとかもあるのだけれども、気がついたら引き込まれている。彼女の世界にどっぷりとつかっているのだ。

いきなり森茉莉から話は逸れまくるのだが、十年以上前、私がオンサイト翻訳の仕事を始めたてのときは、英文和訳の仕事が怖かった。別に和文英訳が得意というのでもない。日本国内で和訳をする場合、日本語歴が自分よりもずっと長い人たちが読むので、緊張感が半端なかったのだ(今も論文やエッセーを書くときは緊張する)。一緒に組んでいたベテラン先輩翻訳者は、私が訳した和文のパートに目を通して気がついたことをアドバイスしてくれていた。よく言われたのが「句読点が多すぎる」というものだった。で、修正すると今度は「句読点が少なすぎて、読むとき息が続かない」とも言われた。文章って難しいなぁと思ったものだ。そのときに、お客様を招いての業界セミナーのクロージングスピーチを記録に残しておくために、和訳を頼まれた。オリジナルスピーチは英国人の役員自身が書いたものである。もう終わったスピーチだし、そんなに長くもないのでさくっと終わるかと思ったら、そうはいかなかった。確かスピーチの最後だったと思うのだが、「I hope you have enjoyed the seminar」の一文があって、そこを「お楽しみいただけましたでしょうか」と訳したら、日本人の役員(英語は出来ない方)が「お客様に向けてわが社の提案や提供できるサービスのご紹介をするセミナーだったから、「セミナーを楽しむ」というよりは、僕だったら日本語で『セミナーは、皆様のお役に立ちましたでしょうか』って言うと思うよ」と校正してくださった。ああ、確かにそうだよな、と思った。

その役員にいっぱい添削されて真っ赤になった和訳を手に、やっぱり字面を訳すだけではあかんなーとか、私の日本語下手やなーとかとか、当時思ったのをよく覚えている。コンテキストを訳すというのが翻訳のセオリーだけれども、そういったことを実際に学んだ最初の経験だった。どういったセミナーだったのか、とか、どういう人が対象で、セミナーの目的はなんだったのか、など、訳すときに考えることは沢山ある。字面だけを見て、その言葉がどういう空気の中で発せられたのかを振り返るには、想像力もいると思う。

なぜか森茉莉の文体についてのエッセーを読んでいて、大昔のことを思い出す。カフェではビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デビ』がかかっていて、『ユリイカ』とぴったりあっていた。家に帰ってビル・エバンスのCDをずっとかけていた。

*1:手前味噌だけど、餃子は自分で作った餃子が美味しいと思う。
*2:英文を和文に訳すという仕事は和文英訳よりは機会は少なかった。なので一層緊張していて、仕事で英文和訳が増えだしたころに中村明の『センスある日本語表現のために』を購入していた。時間のあるときに読み返そうと思っている。
by himarayasugi2 | 2012-09-14 08:44 | 雑感 | Comments(0)
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