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ヒマラヤスギ雑記

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ひと夏の休暇のような

『火山のふもとで』を読了する。月曜の午後に読み始めて、100ページにちょっと足りないくらいを読んで、火曜日は読まなくて、水曜日に100ページ読もうと思っていたのだが、200ページを越えたところから、読む速度が一気に加速されて途中で本を置くことができず、アクセル踏みっぱなしで最後まで読んでしまった。最初に作家の背景を知らずに100ページほど読んだとき、建築とか建築設計事務所について詳述されているので、建築家に設計を依頼したことがあるのかなとか思っていた。読了後にお名前で検索したところ、作家の松家さんは『芸術新潮』の編集長もされていたことが判明する。もしやと思って自宅に数冊ある『芸術新潮』のうち、2007年7月号「正直な住宅 大人のための家づくり案内」を開いてみたら、編集長が松家さんだった。あつかましくも一方的に縁を感じる。家にある『芸術新潮』で、松家さんが編集長なのはこの一冊だけなのだ。建築も芸術もお詳しいはずである。

『火山のふもとで』の舞台の中心は、浅間山のふもとにある村井建築事務所の「夏の家」とその周辺である。夏の間だけ事務所はここで作業をする。そこで建築事務所の新入所員である「僕」の視点で話は展開してゆく。筋と関係なく印象的なのは、飲食の場面だった。ローストビーフとか、パンにバルサミコとかオリーブオイルとかをかけるだの、とれたての新鮮夏野菜を蒸していただくとか、ささっと即席でスコーンを焼いて、その焼き立てスコーンにクロテッドクリーム(生クリームでないところがいい!)をたっぷり塗って、紅茶と一緒に流し込むとか、夜に「先生」が豆を挽いて珈琲を淹れてくれるとか、読みながらお腹がすいてしょうがなかった。この日のお昼がまるちゃん正麵に白菜とネギを乗っけたものだっただけに、余計に。

建築やアートに関する記述も興味深かった。建築家のアスプルンドの作品について何度も言及される。大好きな森の火葬場についても書かれていて、松家さんもアスプルンドがきっと好きなんだなと思うと嬉しい。「先生」のモデルは軽井沢に別荘を持っている建築家ということで吉村順三の名前に辿り着く。後半に六角形の設計案が話にでてきたときに、吉村順三だと確信した。吉村順三は八ヶ岳音楽堂の設計もされていて、それが六角形なのだ。この音楽堂は2、3度演奏を聴きにいったことがある。森の中にひっそりと品よく佇んでいるのだ。作中の「先生」の建築のイメージと重なる。音楽堂はリヒテルと武満徹がアドバイザーをつとめたらしい。

ややネタばれ:
図書館のコンペのくだりを読んでいて、図書館は不思議な場所だなぁと思う。小説を読んでからアスプルンドが設計した図書館の画像をネットで見る。アスプルンドのあの本棚ウェイブは圧巻である。私が大昔に卒業した女子大には図書館が二つあって、ひとつは古い古いもので、もうひとつはごくごく一般的な図書館である。古い古い図書館は、本当に味があるのだ。本棚からナルニアの国に行けちゃいそうな感じ。ハリー・ポッターとかが隣で本を広げていても違和感がない空間なのだ。窓から見える風景とか、内部の造作とか、流れる時間とか、今はもうあんな図書館は作れないと思う。当時の私はもっぱら新図書館の利用で、旧図書館はほとんど図書館として利用しなかった。もっとあそこで勉強すればよかった。本気で後悔している。

そしてもっとネタばれ:
主人公の僕は、絶対に最初の年上の女性とはくっつかないと思っていて、もう一人の彼女のほうがいいんだ、なぜ気がつかないんだと、無言で本に念を送っていた。その甲斐(?)あって、もう一人の彼女と最後は一緒になったみたいで、安堵する。

読み終わって森でひと夏の休暇を終えたような気分に浸る。
by himarayasugi2 | 2013-01-24 08:49 | 本など | Comments(0)
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