いつも行く美容院には、店長の他に若いスタッフが2名いる。忙しいときは、臨時でパートのアシスタントが来る。昨日は、店長だけが出勤で、お客は午前中の私だけで、私が終わったらお店を休みにする予定だったからか、店長は普段よりもよく話をする。若いスタッフの2人について、話始める。
スタッフは20代の2人で、Aさんが先に来て、数か月遅れてBさんが店に来るようになった。AさんとBさんは、当初はAさんのほうが技術的にも上で、先に店でハサミを持たせてもらえた(=アシスタント業務だけでなくて、実際にお客を持って髪を切ることを許可された)のは、Aさんだった。Bさんは、テキパキして、キレキレに仕事ができるタイプではないのだけど、ゆっくりだけど少しずつ着実に前に進むタイプで、店長の言葉を借りると「前しか進まない亀」らしい。カットの練習でも、徐々に腕を上げてゆき、Bさんも少し前からハサミを持つようになる。
最初は余裕のあったAさんだが、そのうちにBさんに売り上げで追いつかれ、最近抜かれてしまったらしい。売り上げというのは、指名客の数にほぼ比例する。店長によると、Bさんは、とにかくこの仕事が好きだから、研究熱心で、自分なりにいろいろ工夫したり、付加価値をつけようとしているらしく(ヘアスタイルの提案など)、そういうBさんだから、お客もBさんをリピートするようになる。当然、それがAさんには面白くない。で、最近、目に見えてモチベーションが下がってきているという。店長の目には、Aさんは、自分にも他人にも「ぬるい」と映る。「がつん、と叱られた経験もないし、失敗した経験もなくて、プライドだけは高いから、そのプライドを守るために、逃げようとする」と言う。最近、Aさんは「自分は、売上げは気にしていない」と発言したらしい。それに対して店長は「僕は、店でハサミを持つ以上は、売上を気にするのは、義務やと思うし、売上を気にしないなんて、ほんとに言ってほしくなかったんですよ」と、嘆く。
私は、Aさんの気持ちは、肯定しないけど、理解はできる。Aさんは、はっきりと勝負がついて、負けを突きつけられる前に自分から土俵を下りて、プライドを守りたいのかなと思う。もし、Aさんがその仕事がすごく好きだったら、土俵を下りずに、負けてもまた努力していけばいいと思う。でも、もしAさんが、その仕事が好きでなくて、他にやることがないからやっているというのであれば、他の可能性を探るというのもありかなと思う。好きでないと続けられない仕事かなって思うから。ただ、Bさんに抜かれたことは、つらいかもしれないけど、そういうことって、どういう職場でも起こりうることだし、そのたびに土俵から下りていたら、もう上がれる土俵は少なくなるんじゃないかなと思う。
というようなことを、答えたら、店長も「ですよねぇ」と同意する。私は、AさんもBさんもシャンプーのときしか話をしないので、よく知らないのだが、2人とも感じがいいなって思っている。
今朝、この話を夫にしたら、夫も「そういうことは、どんな仕事をしていてもあるし、そこで投げたら、そこで終わりやなぁ」と返ってきた。仕事以外でも、スポーツでもそういうことって、あるし、誰でもそういうことを経験して、負けて、負けて、たまに勝って、を繰り返していくのかなと思った。
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