ケンが理解できる人間の言葉はいくつかあるのだが、まずは自分の名前(といっても名前という概念を理解しているのではなくて、「ケンちゃん」という音がしたときに飼い主の方を向いたり、飼い主の方へ行けば、優しい言葉をかけてもらえたり、美味しいご飯をもらえるということを理解している)、それからオスワリ、マテ、ジッカイク(=実家行く? 語尾を上げて疑問形で)、オヤツ、ダメ、ヤギミルクなどである。それからチョーダイというのもわかっている。「チョーダイ」は、ボールのリトリーブをしているときに私が使いだした言葉で、今では「咥えているものを口から出して飼い主に差し出す」という意味のコマンドになっている。
日曜日、最後の休日を家でのんびりと過ごしていたら、ケンが「お昼のおやつを実家にもらいに行こう」とアピールしだした。鼻をつんつんと押しつけてきたり、おもちゃをバシバシたたいたりして気を引いてくる。「はい、はい」と一緒に外に出る。ケンは迷わず実家の方へ回り、外からガラス越しにぴしっと背筋を伸ばしてお座りをしてアピールする。母が出てきておやつを庭でやり、母はすぐに部屋に入る。外は寒いので、食べ終わったケンに「もう入ろうか」と声をかけるも、ケンは「もうちょっと外で遊んでく」と伝えてくるので、ケンを残して家に入る。玄関のすりガラス越しに、ケンが実家に駆けてゆくのが見えた。何度もおやつをおねだりするのはよくないので、そうさせないようにもう一度庭に出ることにした。
ケンは私が庭に出たことに気付いていない。夢中で実家の庭をぱたぱたと走り、匂いをクンクン嗅いでいる。茂みに何かを見つけて素早く移動して、またすぐに方向転換して戻ろうとした。そのときのケンの顔が、何か楽しいことを見つけたときの「いいもの、みーっけ」という顔なのだ。今までの経験からいうと、ケンが自力で見つけてきた「いいもの」は、ケンにとっては、よくないものであることが多い。実家のリビングのゴミ箱の中からラップがまだ少し巻きついたラップの芯を見つけて咥えたときとか(ラップがお腹に入ると本当に危険)、ラップの芯を見つけて食べちゃったときとか(小型犬だったら腸閉そくになることもあるらしい、ケンの場合も念のため獣医に連れて行って診てもらった)、こういう顔をしていた。ラップの芯のときは、私は真剣な顔で「ちょうーだい、それちょーだい、ケンちゃん」とケンの目線まで腰をおとして両手を広げて何度も言うと、ケンはあきらめて芯を口から出して私にくれた。
ニコニコしているケンの顔をよく見ると、口が半開きである。口の中に何かがある!食べてしまわないうちに取り上げないといけない。私はケンの前に出た。ケンは露骨に「しまった!見つかった!」といった表情で、私と目を合わせようとしない。「僕はなにも知りませんけど」と、しらばっくれて、すっと目をそらすのだ。後ろめたさ200%である。ケンの目を見て、低い声で「ケンちゃん、それちょうだい」と両手を広げて3回ほど言うと、あきらめて私の手のひらに口に咥えていたものを、ポトリと落とした。からからに干からびた半分に切った蜜柑で、皮には青カビがびっしりとついていた。おそらく母が鳥のために去年から木の枝に突き刺していたのが落ちたものだろう。普段は柑橘類を絶対に口にしないくせに、干からびてカビてきたら口にいれるなんて、おかしな犬である。
「ちょーだい」と言われてすぐに口に咥えていたものを出したときには、うんと褒めて代わりのおやつをやるようにしている。なので、すぐに玄関から夫に声をかけてきびなごを一尾用意してもらって、「ケンはおりこうさんやねー、かしこいねー、」と言いながら体を撫でてきびなごを食べさせた。本当は、目をそらしたりして、いたずらが見つかった子供のような表情のケンを撮影したいのだが、危険物を飲みこんでしまう場合もあるので、カメラを片手になんて悠長なことはできないため、写真はない。
(最近のケン;床暖でくつろぎながら日向ぼっこという写真が多くなる季節。)
(ベランダで日向ぼっこ中。)
(ダイニングテーブルで本を読んでいたら、椅子とテーブルの脚のところにぴたりとひっついてくる。)
(撫でてやると満足そうな顔をした。よしよし。)
ヤエノサクラ:
大河ドラマの初回を視聴する。綾瀬はるかはまだ登場してこない。子役の女の子がかわいい。だが、会津弁で子供が話すセリフがよく聴き取れなかった。でもあまり大勢に影響はない。時代が『龍馬』とかぶるので、わりとわかりやすかった。初回だけだとなんとも言えない。