本屋で『BRUTUS』の「泣ける映画」特集を見る。泣ける映画の総合ランキングにランクインしている作品リストの中に『ディア・ハンター』を見つけた。この映画は、中学生のときに友人のお母さんが誘ってくれて、友人とそのお母さん、そして私の3人で観に行ったのだ。「いい映画らしいから、一緒に行こう」と言われたのだが、それまで子供向けの映画しか観たことのなかった私は、「いい映画」の意味をわからぬままついて行った。
おそらく生まれて初めて観た「ハッピーエンドではない作品」だと思う。どんなに場面が絶望的になっても最後にはめでたし、めでたしとなるはず・・・と祈るようにして観た3時間。衝撃のラストに梯子を途中で外されてしまった気分。ラストでクリストファー・ウォーケンの虚ろで狂った目が、ロバート・デニーロを見たときに一瞬だけ正気に戻ったように思えたが(いや、思いたい)、友人が目の前に現れても、戦場で壊れてしまった心は戻らなかった。中学生の私は、泣くというよりはショックで呆然とした。
今から30年ほど前の映画でもあるし、その後1,2回テレビで見たくらいなので、細かいところは忘れているのだが、あのラストだけは、ラストのクリストファー・ウォーケンの目だけは、いまだ鮮明に覚えている。あのシーンを思い出すたびに、胃がきゅっとなる。上映終了後に、お昼ご飯をご馳走になったと思うのだが、その日の記憶は映画のことしかない。
テーマ曲の『カヴァティーナ』の美しい旋律は、映画の悲しさをいっそう際立たせる。自分の全く知らない世界(しかし現実で起こっている出来事)を知るきっかけという意味で、中学生のときに連れて行ってもらってよかったと思っている。
(平和に昼寝中のケン)