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ヒマラヤスギ雑記

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執念深い客

昨日、自分たちが神様だと思っている客とカフェで遭遇したことを書いたのだが、書きながら大昔、女子大生だった頃にあったことを思い出していた。現在の出来事が遠い昔の記憶の固くなった引き出しをぽんっと開けることがある。

大昔、女子大生だった頃のある冬の週末に、祖父母と父・母・妹の5人で祖父が好きな中華料理を食べに行くことに成り行きで決まった。その中華料理レストランは某ホテルの高層階にあり、祖父はその店が好きだった。

予約の名前はおそらく父でしたのだと思うのだが、店側はよく来る祖父の顔をちゃんと覚えていて、接客も丁寧だったし、お料理の説明もにこやかに詳しくしてくれたのを覚えている。私はそこで、生まれて初めてカエルのから揚げを食べたのだ。美味しかった。週末ということもあって、家族連れも多く、ホテルの高層階という立地にもかかわらず地元の人も気軽に行ける値段で本格中華がいただけるお店だった。

食事を終えてホテルの下まで降りたときに、私はマフラーを店に忘れてきたことに気がついた。祖父母達をまた上まで付き合わせるわけにはいかないので、ホテルのロビーで待っていてもらって、1人で高層階のその店にマフラーを取りに行くことにした。レストランのクロークまで行って、マフラーを忘れたことを告げた。クロークのスタッフは中華レストランのスタッフではなく、おそらくホテルのスタッフだったと思うのだが、私をジロッと見て、「マフラー?どこの席?どんな?」とぶっきらぼうに言うのだ。食事をしていたときのにこやかな態度から一変して、面倒くさそうな応対に、私が何か悪いことでもしたのだろうかとドキドキした。

「グレーのマフラーで、席はあの辺りの席で、」と言うと、スタッフが「あ、さっきの」という表情を一瞬浮かべた。マフラーを取ってきて急ににこやかに「マフラーですよ、お待たせして申し訳ありません」などと言うのだ。笑顔も言葉もまさに「とってつけた」という表現がぴったりだった。

世間知らずの女子大生といっても、こういうことは敏感である。つまりこのホテルのスタッフは、女子大生が一人で来ても通常はこういう応対しかしないのだ。たまたまよく来るお客さんの連れだったということに気がついて軌道修正を図ったというわけ。とても気分が悪くなって憮然としてみんなの待つロビーへ行った。この中華レストランを気にいっている祖父に告げ口するのは気が咎めたので、父に帰り道にさっきの出来事を話した。

父は私の話を聞いても驚くことなくこう言った:「相手によって態度を変えるお店は、所詮三流ということ。三流のお店を相手に怒っているなんて時間の無駄である。ほっておけばよい」だったのだ。父の反応は意外だった。てっきり、からかうように「まぁ、そんなことで怒りなさんなよ」と言うとばかり思っていたから。

私はこのときまで自分の語彙の中に「三流」という、ちょっと非難めいた言葉を持たなかったのだが、思いもかけない父の冷静な言葉で、「三流」ってこういうときにこうやって使うのかぁ、と妙に印象に残っているのだ。父はおそらくこういったことは、経験してきているのだろう。だから私の話を聞いても驚かなかった。

このホテルもレストランも今でも営業している。あれから20年以上経過しているから、前述のようなサービスではないと思うので、ここで現在のホテルあるいは店を批判するつもりは全くない。が、今でも私はお勧めの中華レストランやホテルっていう文脈ではここのことを忘れたふりをしているのだ。執念深い元女子大生とは、そういうものである。
by himarayasugi2 | 2011-05-18 08:33 | 雑感
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