伊集院静のことは、夏目雅子のご主人だった人ということしか実はよく知らなかった。エッセーは週刊誌などでたまに目にするくらいで、小説も読んだことがなかったし、どういう話し方をして、どういう声でどのくらい背が高い人とかも全くしらなかった。興味もなかった。たまたま日曜日の夜に『JIN』を見た後、テレビをそのままにしていたら、佐渡裕のベルリンフィルのドキュメンタリーをやっていて、それもちらちら見ながら、歯を洗ったり(*1)していて、気がついたら『情熱大陸』のテーマソングが流れてきたので、「今日は誰だっけ」と思ってテレビの前に移動したら結局最後まで見てしまったという次第である。
最初に取材を申し込むところからカメラは回っている。気難しい顔。取材企画書の中で「伊集院さんに失礼なことをお聞きすることも含めて・・・」といった主旨の文があって、それを伊集院静は読み上げて、すぐカミソリのように鋭い視線を返して「この年で失礼なことを質問されたら、立ち上がって帰るだけだよ」と言い、空気を凍らせたりするのだ。おお、怖い。
しかし、最初の印象はどんどん変っていく。彼が厳しい言葉を言えば言うほど彼が優しい男だとわかる。サイン会での温かい言葉。撮影スタッフのお車代を気にするところ。仙台に戻る新幹線の席で夏目雅子への想いを語る寂しそうな横顔。夏目雅子は彼の永遠の人になってしまった。「小説は人の人生を変えることはできないけれども、(悲しみに)寄り添うことはできる」ずっと夏目雅子のことを考えていたのだろうか。
夏目雅子の亡くなる直前に欲しいものはなにかと訊ねると、ワインだと言う。伊集院静はワイン、といってもそんなに高級ワインでなくて、そこそこよいワインを買ってやろうと店に行くも、財布にお金が全然なくて、こんなときに、最後のワインになるかもしれないのに、こんな安ワインしか買ってやれないなんて、と思ったらしい。抑揚のない話し方が余計に悲しく見えてしまって、ちょっと涙がでてしまう。彼はそれからお金に左右される生き方はしない、と決心したと語る。
魅力的な人だなぁと思う。番組を見てよかった。私の「魅力的なおっさんリスト」(*2)にまた1人加わった。彼が女の人にモテルのはよーくわかった。優しさとやんちゃが絶妙にブレンドされていて、かつ、厳しいことも言ってくれるから。今度ちゃんと著書を読んでみよう。まずはエッセーがいいかな。
*1:関西では「歯を洗う」「パーマをあてる」という人が多く、私もその1人。
*2:今のところ、リストにはリヒテル、安藤忠雄と伊集院静の3人である。
JIN:
欠かさず観ている。視聴率が最初に比べると下降したらしいが、確かに第一部の方が面白かった。今回の第二部?は話が詰め込まれすぎていて、視聴者が息継ぎできるヒマがほとんどない。仁が投獄されたり、消えかかったかと思えば、野風が死にかけたり、仁がまた狙われたり、恭太郎にも暗い影が・・・、そして龍馬がねぇ、暗殺は不可避だよねぇ。中谷美紀は本当に美しい。凄みのある美しさ。高慢なようで温かい人柄の持ち主という複雑な人物を美しく、品よく、好感の持てる演技で表現している。知的だし。でも綾瀬はるかもいいのだ。このドラマは登場する女優がみな感じがいい。