夏休みに入る直前の学校の雰囲気が好きだ。ひとつ、ひとつ講義が学期最後となり、図書館は、レポート提出や試験に追われているためにいつもより真剣な学生でごったがえしている。先生方の表情からも「さぁ、これで休みに入れる」という開放感みたいなものがうかがえる。講義のときに「打ち上げ」の日程の話が混じるのもこの時期である。中学や高校のときは、夏休みに入った瞬間、悪い成績表が自分の中でリセットされて、夏は部活と遊びに明け暮れた。こうやって、学生で夏休みを再び迎えられるなんて、数年前は全く想像もできなかった。
授業の後、関連の文献が届いているという知らせを聞いて研究室に寄る。同じように知らせを聞いた学生が何名かいた。レポートの印刷のためにパソコンを借りに来た学生に混じって、M1のM嬢が定期刊行誌を丁寧に調べていた。私の姿を見つけると、M嬢が「ヒマラヤスギさんが発表されていた件ですけど、この記事ってお役に立つのではありませんか」と、わざわざ見せにきてくれた。確かに関係している記事なので、お礼を言ってコピーをとろうとしていたら、追加で「この記事も、よさそうですよ」とまた教えてくれる。ありがとう。M1のM嬢はいつもやる気まんまん。
先日、Y先生の今学期最後の授業が終わった。私は都合で夜の打ち上げは欠席したのだが、先生が授業を早めに切り上げて、打ち上げまで近くのカフェでお茶でも飲もうと声をかけてくださったので、それには参加する。先生にお茶をご馳走になる。レジで支払いを済ませ、店を出て10メートルくらい歩いたところで、先生が「あ、携帯を忘れてきた」とおっしゃるので、私が店に行って取ってきます、と言うと「じゃあ、すぐわかるように、誰か僕の携帯の番号を言うから、かけてみて」と先生。
店の人に言うと、一緒に席の周りとか探してくれたのだが、出てこない。携帯も鳴らない。店の外に戻ると先生が笑いながら立っている。「いや、ヒマラヤスギさんが走って店に行ってくれたすぐ後に、僕の鞄の中から携帯が鳴ってさ、鞄の中で行方不明になってたみたい、ごめん」とのこと。それから嬉しそうな顔で、「A嬢に番号を言って急いで僕の携帯を鳴らしてもらったんだけどさ、これってA嬢と僕は電話番号を交換したってことだよねぇ」などとおっしゃる。「先生、計画的犯行とちゃいますの」と言うと、「違うよぉ」と楽しそうにぐふふと笑うのだ。先生は私の父よりも年が上である。お茶目である。
夏休みといっても、今年は忙しい。でもこういう夏休みも新鮮だ。