『鍵のかかった部屋』の最終回だった。初回からずっと面白かっただけに、もう終わるのかとものすごく喪失感がある。最後のエピソードは2週にわたっていて、最終回にふさわしい内容だった。犯人の佐藤学(玉木宏)は、闇金融に追われて身元を偽りひっそりと清掃員の仕事をしている孤独な男である。両親の仇ともいえる男と偶然再会し、復讐をとげる。佐藤学は頭脳明晰で、念入りに計画を練っていた。ほぼ解明不可能なくらい難しいトリックである。
が、佐藤学の不幸はその現場に榎本がやってきたことである。榎本は手強い。佐藤は榎本を佐藤のトリックを崩すかもしれない危険人物とみなし、犯人として逮捕されるように警察に匿名の電話をかけて連行されるようにする。この、犯人から榎本に攻撃(のようなもの)を仕掛ける点が最終回ならではの展開である。すぐに榎本は釈放されるものの、榎本は自身の素性が露になる危険を感じ、この犯人を徹底的に追い詰め、自首するようにもってゆく。このあたりが、トリック以上の見所だったのだ。
榎本は佐藤学の2枚も3枚も上手であった。自分に攻撃をしかけた佐藤学を完全に捕らえる。住まいをつきとめ、部屋に侵入し、ダイヤの隠し場所を見つけ、そしておそらくダイヤの一部を模造品とすりかえた。その上で佐藤学の鉄壁のトリックをいとも簡単に彼の前で破るのだ。一切の感情を排した口調、冷静で淡々とした話し方、威圧感に佐藤学は完敗する。榎本の厳しい視線は、ナイフのように佐藤学に突き刺ささる。玉木宏がナイーブな佐藤学を好演していた。必死で逃げてきた男、ガラスの向こうの世界に憧れ続けた哀れな男であり、同情すべき点はたくさんあった。榎本が追い詰めてゆくにつれて、感情が露になりおびえる玉木宏になぜか感情移入してしまう。
事件は解決するものの、榎本は姿をくらました。今回の件で、警察にマークされた時点で消えようと決めていたのだろう。彼はおそらく大泥棒だったのだ。佐藤学のようにガラスの中に入りたがるわけでもなく、ガラスの向こう側から内側を冷めた目で観察し、たまに鍵を破って内側へ侵入できればそれでよかった。昼間はガラスの中の美しい住人である青砥純子と少し話せればそれがささやかな幸せだったのかもしれない。エリート弁護士の芹沢も榎本に好意的に接してくれたし、去りがたかったとは思うのだが、榎本は佐藤学にも告げたように「僕はいつでも自由でいたい」のだろう。臨時収入であるダイヤ1億円分を手に海外に行ってしまった。なんとなく再登場を期待させるような、榎本らしい飄々としたラストだった。スペシャルやらないかな。
メインキャストの3人はみんなよかった。佐藤浩市はとてもいい味だしていて、さすがのさすがという感じ。戸田嬢も、あのちょっとどんくさく、真っすぐで、で「おばちゃんぽい」ところもいい。芹沢・青砥コンビは、コミカド・黛コンビとタメを張っていた。組み合わせだったら、芹沢・青砥コンビのほうが好きかな。単独だったらコミカドなんだけど。大野智演じる榎本は、なぞめいていて頭脳明晰で、たまに面白いことをチラッと口にしたりする不思議な人物。長いセリフも完璧で、存在感があって、この人いろんな役ができるんだとちょっと思った。スペシャルやらないかなー。
ドラマ全体を通して見て思ったのは、このドラマではガラスの内側も外側も熟知している人間が、最も物事を俯瞰して見ているなということ。榎本はガラスの内と外を行き来しながら色々なものを見てきたのだろう。人を隔てているガラスは薄い。なにかきっかけさえあれば、内側の人間は誰でもすぐに外側の人間になってしまう。そして外側の人間が内側の人間になることは容易ではない。隔てているガラスは同じものなのに。とても薄く、透き通っているのだけれど。
携帯苦戦中:やっとあの暗証番号金庫3個分みたいなメールアドレスを変更できた。それから夫と赤外線通信の練習を行う。今のところ登録アドレスは、自宅と夫携帯である。進歩した。文字の入力がストレス以外の何ものでもないよ。