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ヒマラヤスギ雑記

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辞書の話というよりも、

『舟を編む』をやっと読むことができた。読みたいなーと思っていたら、昨日の朝、ケンと実家に朝おやつをもらいにいったときに、母が「『舟を編む』って知っている?」って言ってきたのだ。「面白かった?」と訊いたら「面白かった」と母。で、母から借りる。

10ページから15ページに1度は笑いながら、そして最後はちょっと泣いてあっというまに読み終わった。午後の数時間で読める。15年かけて大きな辞書を完成させるという主軸のストーリーに、主人公をはじめとする登場人物たちの物語が絡まっている。主人公の馬締(まじめ)は、辞書を編纂する部署に辞書を作る才能を見込まれて異動となる。その辞書を作る才能や辞書を作る過程というのも興味深いけれども、なによりもまじめクンの「ひたむきさ」と「なりふりかまわなさ」と「自分の仕事に対する熱意とプライドと集中力」に接した人たちが、影響を受けて変わってゆく過程が、私にとってはこの話の魅力だった。登場人物たちはもちろんのこと、この本を手にとって辞書の完成を見届けた読み手もいつしかまじめクンの影響を受けている。本の帯に書店店員の、「10年後の自分に恥ずかしくない仕事がしたい」というコメントがあったけれども、読み手がそれぞれのミッションに気付き奮起するような、そんな話だった。青春小説かな。

チャラ男設定の西岡クンが好きである。というか、西岡クンの気持ちはわかる。「常に他人と能力を比べてあせって」おり、「卑屈」で「なりふりかまわず」ができなくて、しょうもないプライドを誰よりも自覚している西岡くんに自分を重ねてしまう。だから余計に、西岡クンが「誰かの情熱に、情熱で応えること」を決意し、辞書作りを自分のやり方でサポートすることに打ちこみ始めたときはほっとして嬉しくなった。

ちょっと前までは翻訳をやっていて、学生に戻ってからは文献を読んでいるので、辞書は毎日使うものである。でも、10年以上も前から電子辞書中心で、紙の辞書というのは、重いのでよほど特殊なもの以外は極力持ち歩かなくなっていた。パソコンでいくらでも辞書は見つかるし、辞書は電子コンテンツのひとつにすぎないと考えるようになっていた。でも、この小説を読むと辞書に対する見方は変わる。何年も、何年も、めくりやすさに、軽さに、ぬめりに、裏に映らない機能などを考えて、辞書に使う紙を考える人だっているのだ。紙の質も、表紙の手触りも辞書の要素である。一冊の辞書のはじまりは、どんなものでも、最初は編集する人間の手作業なしでは成り立たない。何度も打ち合わせをし、装丁を考え、チェックして、一冊の辞書は出来上がる。

本の中で、大学院生に声をかけてバイトを頼む場面がよくあったのだが、私もここでバイトしたいなー。また、「愚にもつかないフォローは結構です」という佐々木さんのセリフを、一度使ってみたい(使える場面は沢山ある)。佐々木さんの絶妙なアシストも好きである。

この作品は、映画化が既に決定していて、まじめクンは松田龍平が、香具矢が宮崎あおいが演じる。で、西岡クンは、オダギリジョーが決定しているらしい。オダジョーは、すごくいいと思う。まさにイメージである。まじめクンは、読んでいてずっと松山ケンイチとか吉岡秀隆(年齢オーバーか)とか山崎樹範(こちらも年齢オーバーか)の顔がちらちら浮かんでいたんだけど、まー、松田龍平も面白いかも。母は、松田龍平は違うと主張していた。香具矢は小説ではあまり出番はなかったと思うけど、宮崎あおいがキャスティングされるということは、出番が増えるんだろうか。うーん、微妙。そもそも香具矢のイメージは、私的には貫地谷しほりだったけど。

辞書を作る話というよりは、それに関わる人の話という印象。でも紙の書籍の意味について考えるよいきっかけになった。「下駄箱」はあまり使わないらしいと本にはあったけど、私は「靴箱」とも言わない。ゲタバコのほうが発音しやすいし(ゲで始まるほうが、クで始まるより簡単)、実際に下駄なんて入ってなくても、履物の象徴として名前に残っているのでもいいやんと思った。

『舟を編む』の最後のページには、実家で特注した「X蔵書」(Xは実家の姓)のハンコがどんと押されていて、ハンコの下に母の小さな字で「2012.8.10 Xの帰りYのジュンク(で購入した)」とあって、その隣に2012.8.11とあった。これは読了した日付である。紙の本のいいところって、こういうとこと思う。
by himarayasugi2 | 2012-08-26 08:05 | 本など | Comments(2)
Commented by 江草乗 at 2012-08-27 00:12 x
「舟を編む」 いいですねえ。私もワクワクしながら読み終えましたよ。
映画のことは知らなかったです。宮崎あおいさんは好きなので
小説のイメージと違うけど許します。「ただ、きみを愛してる」
という映画に不覚にも泣いたオッサンですので。
Commented by himarayasugi2 at 2012-08-27 08:30
江草さん、
やっぱり宮崎あおいは小説のイメージではないですよね。制作側も失敗したくないから、とりあえず知名度とかも考慮したのかなと。小説は展開が早くて面白かったですよね。
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