途方に暮れた声

実家に顔を出したら、いきなり固定電話が鳴った。きっと母の友人だろうと思って私は帰ることにする。しかし、母のよそよそしい電話応対から、友人からの電話ではないことがわかる。

「いえ、違います」と母は短く言ってその電話を切った。
「間違い電話?」
「間違い電話なんだけどね、ここ1か月くらい同じ人からかかってくる間違い電話なのよ」
1か月って、長くないだろうか?間違い電話も3回目あたりでわかりそうなものである。そう母に言うと、

「そう思うでしょ?違うのよ、相手が何を言っているのかさっぱりわからないの、で、相手も私の話すことを理解できてないみたいで」と母が言った瞬間にまた電話が鳴った。母も私もなぜかさっきの間違い電話の人だとピンときた。

「わたしが出るわ」

受話器を取ってすぐ「どちらさまでしょうか」と意識して明瞭にゆっくりと言う。
すると、一瞬無音になり、それから弱弱しい中年以上、でも高齢者ではなさそうな女性の声で「……ですか?…で、〇△☆で、…だから、…そ…お……し」と声は不明瞭で、言葉も切れ目なく、声は小さく、母が言う通り何を言っているのか、さっぱりわからない。日本語だということしかわからないのだ。

「どちらにおかけですか」と明瞭にゆっくりと大きな声で言ったつもりなのだが、相手はどうやら「どうして電話してくるのか」と問いかけられたと思ったようで、「あのな、……やし……おばあちゃんから…………教えて…も……、預かってる…………預かってる……あの…〇△☆」と返ってくる。単語はいくつかわかるのだが、意味のある言葉として聞き取れない。なんとなくわかったのは、この電話番号を、誰かに教えてもらった、そして、誰かが何かを預かっていて(預かっている人物が、電話の声の主なのか、誰なのか不明、そして何を預かっているかも不明、そしてそれをどうしたいのかも不明)、だから電話した、みたいな感じか。推測だけど。

外国人の日本語ではなく、あきらかにネイティブの日本語(しかも関西弁)だと思うけど、声が小さく、話し方が子供のようでもある。「あの」と私は相手の言葉をさえぎって、「間違った番号です」とゆっくりとはっきりと言うと、「……あ」と悲しそうな声をあげる。「ごめんなさい、切りますね」と言うと「〇△☆……」と声がかえってきたけど、やはり何を言っているのかわからなかった。受話器を置く。

母によると、電話がかかってくる時間は決まっていないという。早朝だったり、夕方だったり、夜だったり。いつも何を言っているのかわからなくて、最初は母も、「何番にかけていますか、間違っていますよ、どこにかけようとしていますか」などと丁寧に問いかけていたけれども、どうやら相手もあまり母の言うことを聞こえていないか、理解できていないようなので、最近では「違います」とだけ言ってゆっくり電話を切るようにしているらしい。

「この人が困っているということだけは確か、でも、この人が誰で、どこにかけようとしているかがわからないから、助けようもなくて、ある日突然電話があって、それから定期的にかかってくるの、どうしたらいいんやろうね」と母。

その後、母のために楽天で買ったものが届いたので、午後に持っていったら、また同じ人から電話があったという。これで1日3回も電話があったことになる。「ヤマダさんですか、って訊いてきたわ、はじめてわかった、で、違いますって言って、電話を切ったの」

電話をかけてくる女性は、独りで暮らしているのだろうか。誰かが傍にいたら、ここまで長引かないと思うし。誰かと暮らしているにしても、1人のときにかけてきているのだろう。いたずら電話ではなさそうだし、どうしたらいいものか。

電話のむこうには、他に人の気配はなく、なんの生活音もしなかった。なんか、途方に暮れた感じだけは伝わってくる。 








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by himarayasugi2 | 2018-05-14 09:53 | 雑感 | Comments(0)

日常の雑感、衣食住、犬についての記録。


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