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ヒマラヤスギ雑記

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「米、買いに行こ」

『心の傷を癒すということ』第三回を視聴した。

ドラマ冒頭に終子のセリフに「いかなごの香りがする」とあったのだが、そのイントネーションがちょっと違うと思った。終子を演じるのは奈良出身の尾野真千子だけど、いかなごは神戸の西らあたりのおかずで、奈良ではあまり馴染みのない言葉だからか。私は「いかなご」と言うとき、「いか」と「ご」は同じ高さ(低音気味)で、「な」だけ上がる。「い→か→な⤴ご→」みたいな。夫にも確認したら私のイントネーションと同じだった。終子は確か「な」が下がって「ご」で上がったと思う。実家の母も「いかなご」のイントネーションが気になったらしい(その他、気になった箇所がひとつあったという)。

イントネーションのことは置いておいて。

今回「いかなご」は、ドラマで象徴的なモチーフとして使われていた。神戸ではいかなごを炊く香りは、春の訪れを意味するものである。ドラマの「いかなごの釘煮」は、震災で平穏な日常から分断されてしまった神戸において、再生を意味するメタファーでもあった。終子は、全壊した病院が再建される予定地でいかなごの香りに気付く。

「いかなごの釘煮」は、自殺をしようとした男性を踏みとどまらせた。この男性は、おそらく震災で妻を亡くしている。がらーんとした何もない仮設住宅の部屋に独りで暮らす男。娘は離れたところで生活していて、電話で話す娘の声は明るいのだが、父親が追い詰められていることに気がついていない。男は、米櫃に米がまだあったら死んだら残った米がもったいないから、米がなくなってから死のうと言った人の話を自分のこととして考えていた。米があと数十粒というところで、彼は自殺を決意するのだが、自殺の直前、お隣の若い母親が「いかなごの釘煮」をお裾分けに持ってくる。男は手にした「いかなごの釘煮」の上に大粒の涙がぽたぽたと落とす。そして「米、買いに行こ」とつぶやく。男は自殺を思いとどまったのだ。

震災直後、男性は、仮設住宅で泣き止まない赤ん坊を抱えて不安でいっぱいだった若い母親を励ましていた。彼女は、男がかけてくれた励ましの言葉で救われ、男は彼女の釘煮で救われた。彼女は自分の釘煮が男性の自殺をとめたとは知らない。男も自分の言葉が彼女を救ったとは思っていない。人生が変わる瞬間は、こういう些細なことなのだと思う。

生と死の狭間で揺れる男性の気持ちが、セリフがほとんどないのに伝わってくる。背中を少し丸め、大股ではなく小股でゆらゆらと歩く様子など、生きる力を失いかけている人間の孤独を繊細に表現していた。エンドロールに吉本新喜劇の内場勝則の名前を見つけたときに、夫とほぼ同時に「もしかして、あの人、内場やったん!?」とテレビの前で叫ぶ。ひー、全然わからなかった。演技をする俳優の顔が消えて、役の顔だけが立ち現れる。演技力ってこういうことなのか。

来週は最終回である。


近所のお家の玄関ドアに子供の工作らしい「鬼の飾り」が今朝つけられていた。私は子供の作品はなんでも褒めるタイプではないのだが、この鬼は、アートだと思った。ものすごくパワーがあって魅力的だ。子供だからこそ作れる「鬼」だと思った。









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by himarayasugi2 | 2020-02-02 12:57 | エンターテインメント | Comments(0)
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